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August 22, 2008

8月22日 ユングの肉声

映像メデイアの発達の功罪は
昨今よくいわれるところ。
アナログなぼくとしてはユーチューブの存在などは
ほとんど奇跡というか驚異、脅威にすらかんじてしまいます。

しかし、勝手なもので自分が欲しいと思っている記録が
映像のかたちで入手できるのは
ありがたいとかけねなく思ってしまいます。

ネット書店で「Matter of Heart」をみつけたときには
心底そう思いました。
これは、心理学者カール・ユングをめぐるドキュメンタリーで、
ぼくは翻訳したヒルマンの『魂のコード』でその存在を
知ってはいたのですが、まさかDVDになっていたとは。

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ユングが自ら塔をたて、瞑想の場とした
ボーリンゲンでの記録なども収められている稀有なもの。
また、ユングの高弟でラテン語など卓越した語学を生かし
ユングの錬金術研究の右腕となったフォン・フランツ、
能動的想像で有名なバーバラ・ハナ、
著名な作家であるファン・デル・ポスト卿らの
ユングの思い出につづき、ユング自身の語りや
アフリカ旅行の映像などもこのなかには収められています。
ユングの肉声を聞くのはぼくにははじめての体験で、
活字で慣れ親しんだ長年の
「イマジナル・メンター」(想像界における師匠)が
ここに召喚
されたようで、不思議な気持ちになりました。
母国語でない英語で話しているユングの姿にも
不思議なものを感じます。
面白いもので、あれほど親しみ、衝撃を受けた
心の「自律性」autonomyという言葉も、
音を伴って聴くとまた字面で感じていたこととは
異なる印象を受けるのです。

無意識や魂はこちらの思い通りにはなかなかからないもので
それ自身が自律性をもっている、というあたりまえのことも
翻訳文体で「自律性」などというと
すごく難しいことのように学生時代は思ってしまったのですが
(とくに意識中心の見方をしていたときには)
音できくと、なんだ、心は自分の勝手にはならない、
当たり前のことをいっているだけなのか、と素直に聞けます。
ネット以前、DVD文化以前では
こうしたユングの肉声に触れることは
もちろん、ほとんどチャンスがなかったわけですが、
「何だーー早く聞ければ
こんなに難しくユングを読まなかったのに」という
残念なような気持ちと、もしこんなに
イージーに「映像ユング」に出会っていたら
またユングやその周辺の人々への憧れや気持ちも
違っていたんだろうな、ちゃんとは
読まなかったんだろうな、という気持ちが入り混じっています。

今ではユングはぼくにとってもちろん、
「聖人」ではないものの、
しかし、若いころから良くも悪くも、ぼくの思考の型を
決定付けた人
であることにはかわりありません。
その人と、映像というかたちであるにせよ、
時を越えていま「対面」できるというのは感激です。

Posted by 鏡リュウジ  映画・テレビ |