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May 25, 2009

5月25日 ケプラーの占星術

すんごい本の翻訳が出ました。

ヨハネス・ケプラーの『宇宙の調和』岸本良彦訳・工作舎です。
ケプラーといえば、一般には「惑星運動の三法則」の発見者であり、近代科学を立ち上げた偉人ということになっています。
そして、ケプラーが明らかに占星術にコミットしていたことは隠せないために「天文学は賢い母、占星術は愚かな娘」などといった言葉が引用されて、ケプラーが占星術を不本意ながら実践していた、と喧伝もされています。
しかし、実際にはそのようなことはありませんでした。
宗教、天文学、占星術、数学、音楽、そうしたものが一体になって、美しいコスモロジーを作り上げていたのが、ガリレオやケプラーの時代であったのです。

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今回、ラテン語から翻訳されたケプラーの名著『宇宙の調和』は、そのことを雄弁に物語っています。
科学史・文化史からのこの書の紹介は、例えば、科学史の大家である村上陽一郎先生の
書評などに任せることにしましょう。
http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2009/05/20090503ddm015070004000c.html

では占星術の視点からはどのようなことが言えるのか。
ちょっと専門的になりますが、興味ある方はここから先もお読みください。

まず、貴重なのはアスペクト理論です。
占星術マニアの間では、ケプラーが近代的な占星術のアスペクト理論の完成者であることだけは知られていますが、実際にはそれがどんなものであったか、知る人は少なかった。
いわゆるマイナーなアスペクトを発見した、ということだけが知られていたわけです。
それが今回、この原典訳で全貌を表わしました。これを読めば、ケプラーの独創の下には、プトレマイオスから多くのアラビアの占星術が存在しており、さらにそれをプラトン主義と接続させようとしていることがわかるでしょう。
ぼくも読破したわけでもなく、さらに完全に理解できる素養があるとは思えませんが、パラパラと読んで興奮というかドキドキとさせれたのは、ケプラーがいかにして天体がある美しい角度を互いにとったときに、地球にその影響が及ぶか、そのプロセスを説明しているくだりです。

ケプラーがピュタゴラス以来の「天球の音楽」というコンセプトに心酔していたのはご存じでしょう。
惑星はそれぞれ美しい比例関係の起動で公転しており、それが美しい和声(ハーモニー、つまり「調和」)を奏でている、という伝統的な考え方です。

ケプラーは天体がある一定の角度をとるときに地上には気象の変動や嵐が起こることを認めていました。

では、どのようにして美しい調和をとった天体が地球に影響を与えるのか。
ケプラーはいいます。
「有効性は、形式的には理論上の存在である星位に帰される。しかし有効性は……星位をとる惑星から直接に事物に下ってくるわけではない。……星位というのは関係のとる特定の性質で、身体の感覚ではなく、論証なしに直感から推理できる精神の性質を動かす。つまり星位のこの作用は、固有の力によるのではなく、精神の力による。このとき、精神が働きを受け取るというが、実際にはむしろ精神が自らに働きかけを行う。精神つまり月下の自然は、こういうかたちで星位によって動かされ、もしくは刺激されて、自身のことを想起し、自ら奮起して地球の内奥からあらゆる種類の気象の素材を引き出す。地球に月下の自然と呼ばれる精神がなかったら、惑星は、それ自体としても適切な星位によっても、地球に対してどんな作用も及ぼせなかっただろう」(336ページ)

ご存じのように、アリストテレス以来、宇宙は月よりも下の世界とその上の世界では全く別な存在としてとらえられ、月よりも上の世界のほうに永遠性や完全性が存在しているとされていました。そして、下位の月下の世界は上位の世界に従う、ということなのですがケプラーによると、月下の世界の自然そのものが宇宙の精神(アニマ・ムンデイ)と同じようにひとつの精神であり、ちょうど色彩を視覚が、音を聴覚がとらえるように、精神の原理である数学的比例を地球の精神が直感的に感知し、自らを動かすというのです。

なんというプラトニズム。
宇宙の精神と地球の精神が、星の数学的配置を通じて呼応しあい、直接的な、物理的影響を抜きにして感応しあうというのですから。
ケプラーは、この地球の精神についてさらにこのように説明を続けます。
「地球の精神にはいわば素材、質料となるものがあるとしてよい。この質料に形相として、円と円のあらゆる比のイデア、精神が統御すべき感覚的な地球の体のイデア、さらに地球がその体を置くことになった宇宙全体のイデアと一緒に、神の相貌が刻み込まれている。……そこで地球の精神のなかで、知覚しうる獣帯の円と天空全体の表象が天地間の事物の感応の絆として輝きだす」(380ページ)

むずかしい説明ですが、ぼくの理解はこうです。
地球の自然も壱個の精神であり、精神には神が定めた調和的なコスモスのイデアが存在している。
天空でそのイデアと呼応する惑星の配置(つまり数学的イデア)が形成されると地球の魂はそれを直感的に想起して、自らを動かすのだ、ということ。
この考え方は、400年以上のちのユングの元型論やシンクロニシテイ論へと流れ込んでいくものですね。
近代人が失ってしまった、緊密で、ある種色っぽい天と地の響きあいをこのなかに感じます。
そしてそれは、確実にぼくたちの占星術のなかで生きているのです。

ずいぶん長くなってしまいましたが、こんな本の翻訳が出たことは喜ばしいかぎり。
お値段も高いし、ベッドタイムに読む、というお手軽なものではないとは思いますが図書館に注文、ということでいかがでしょうか。

Posted by 鏡リュウジ   |